巣造り

3月の終わりから4月に、朝早く交尾が連日起きるころ、枯れヨシなどをくちばしで切り取り、1カ所に投げ集め、数日で地上に巣を造ります。ですから、できた巣のまわりに、円くヨシの刈り跡が残ります。巣造りは夫婦の共同作業ですが、造りかけの巣へ座り、産座造りや細かな補修は、主にメスの仕事です。
巣は、開けた湿地に造るのが原則。ただし、ミズゴケやコケモモの生えた、いわゆる高層湿原には造りません。ヨシやスゲの繁る、低層湿原が好みです。しかし、まれに湿地性のハンノキ林内とか、最近ではササ原や、畑の跡とか郊外にある家の池の縁に営巣した、ヘンな番いもいます。
写真11 抱卵の交代をうながす
メスは次第に巣にいることが多くなり、やがて、巣の上で、踵関節をつけて立ち、ちょっといきんで卵をポトリ。オスはその間、特別なことをせず、いつものように遠くで餌探しなどしています。
卵は、灰白色の地に焦げ茶や茶紫の斑点のあるのが普通。ところが、もう一つ、真っ白い卵もあります。卵色はメスにより決まっていて、一生変わりません。今のところ番いの4分の1ほどが白い卵を生みます。恐らく、メスに遺伝的な異変が生じたのでしょう。初卵を生んだ日の抱卵は、熱心でありません。2卵目を生むのに1日間をおくのが普通で、そのあいだ交尾は続きますが、2卵を生むとピタリと止め、しっかり抱きます。メス・オス交代で、日中はオスがやや長く、夜はほとんどメスが抱きます。従って1日では、メスの抱く時間の方が長いのです。
もし何かの都合で、たとえば雪解けや大雨で湿地に水が溢れ、卵が流されると、2週間ほどでまた巣を造り、卵を生み直すこともあります。巣はそのつど造り、同じ巣を毎年続けて使うことは、めったにありません。
1〜2時間卵を抱き続けて立ち上がり、卵をくちばしで軽く動かし、3〜5分ほどしてまたそっと座ります。これが「転卵・放冷」で、卵の正常な発生に欠かせません。抱卵交代のときもこの動作が見られますが、決まった交代の儀式はありません(写真11)。
雨や日照り、ときには春の雪の中でも、夜昼なく抱き続けて30日ほどで、卵の中から、ピー、ピルルと微かな声が聞こえだします。やがて、コツ、コツと内側から卵をたたく「はし打ち」が鳴りだし(写真12)、ほぼ1日経つと殻は大きく割れ、濡れたヒナが転がり出ます。孵化を親は手伝いません。体力がないと、ヒナは殻の中で命を落とすのです。
写真12 ヒナの「はし打ち」
上の卵はヒナのくちばしが見える