秋に

夏の霧の季節を過ごしたツルは、澄みわたる道東の秋を迎えます。10月から11月にかけ、緑の湿原が枯れ色に衣替えすると、越冬地へ移り始めます。遠くへ移動のとき、オスの合図で飛び立つと、風を捉えて同じ場所でいく度も旋回しながら、次第に高度を上げます。数百mに達すると、越冬地へ向け一直線に滑空します。
しかし、繁殖地から越冬地へ一気に来るより、途中で寄り道することが多いようです。それに、いったん越冬地へ向かい、しかもちゃんと給餌場近くへ来ていながら、繁殖地へUターンをするツルもいます。なぜそうするのかは不明です。
越冬地へ移った家族や番いのあるものは、トウモロコシ畑などに秋の採餌なわばりを構えます。が、次々とツルが来て、オスがいくら頑張ってもなわばりを守りきれず、餌も減るため、小さな群れを作り始めます(写真16)。
写真16 トウモロコシの刈跡に飛来・・・鶴居村
やがて、阿寒の山々の頂が白く輝き、木々がすべて葉を落とし、地面が凍り始めると、群れも大きくなります。それまで草地や湿地をねぐらにしていたツルも、10月下旬くらいから、川の中で夜を過ごします。そのころは日数の5〜8割で、最低気温が零下を記録するようになるのです。
12月に雪が降り、地面が白一色なると、彼らは北風に吹き寄せられるように給餌場へ集まり、大きな群れとなります。そして、ヒトの与える餌に頼りながら、再び越冬地で集団生活を始めます。
このように、タンチョウは決まったところへ集まるため、数を捉えやすいのです。センサスの結果、自然界のツルは、1999年2月でおよそ680羽ほどです。幼鳥は、年により異なりますが、全数の9〜14%です。幼鳥のその後の死亡率は年5%ていどですから、ここまで育てば一安心というところ。

ツルの数が増えているのに、湿原は今も開発され、面積は減り、環境も悪くなっています。従って、湿原にたいする繁殖番いの密度は、次第に高くなっています。ただ、十勝と根室は高く、釧路はやや低く、密度は地域により異なります。1999年に網走で17年ぶりに繁殖がみられたのも、これまでの繁殖地の高密度化のせいかも知れません。
また、一時数が少なくなったため、近親交配が進んでいるという指摘もあります。それにより、遺伝子の多様性が少なく、環境の変化や病気への抵抗性が落ちているかも知れません。
さらに、自然が保てるだけの数より、ヒトの手で増やしているため、将来にわたってヒトは彼らに餌を与え続けねばなりません。
タンチョウは確かに美しい。それはこの写真集でご覧の通りです。しかし、その美は、ごくありふれた、ヒトには目立たず、ときには無視される多くの動植物の命をもとに、成り立っています。私たちの子孫とタンチョウがともに末永く暮らすために、美しいものばかりでなく、それを支える地味な湿地や川、森林をしっかり保たねばならないことを、決して忘れないで欲しいのです。